刊行案内>人文(歴史・社会・民俗・宗教・思想)>『ルネサンス人物列伝』
ルネサンス人物列伝
途方もない時代に生きた、有名無名の人物たちの物語
“この男(レオナルド・ダ・ヴィンチ)はなにも成し遂げないだろう。作品にとりかかってもいないのに、その作品の仕上げについて考えているのだから。”
―ダ・ヴィンチには一度も注文を出さなかった、教皇レオ10世
聖俗問わず、教皇や王侯貴族から、思想家や文人、商人に美術家や音楽家、職人や芸人、はては名うての盗賊の親分まで。
近代へのとば口に花ひらいた、途方もない時代に生きた途方もない人物94人の、興味尽きない人生の物語を、美麗な図版とともに。
▶▶▶『朝日新聞』2012年8月19日付読書面で紹介されました。
放埓に、猥雑に集められた大名鑑
高山宏 氏(英文学者、批評家、翻訳家)
狂おしいほど多様な人々が或るひとつの共通したガイスト(精神)に突き動かされていた。150年前、大歴史家ブルクハルトがそれを「ルネサンス」と名付けた。たかだかこの150年なのだ。今、ルネサンスの後半はマニエリスムと呼ばれ始めた。夜の、懊悩と混沌の斬新なルネサンス・イメージの出現だ。現代を生きるに不可欠な新しいルネサンスのイメージをあなた自身、つくり出せるとすれば何とスリリングだろう。法王や大政治家から娼婦や大泥棒まで、ここに放埓に、猥雑に集められた総勢94人の珍らかな大名鑑を夜毎ひもときながら全く新しいルネサンスを立ち上がらせるのは他ならぬ読者、きみ、あなたの仕事。あなた一人の微視歴史学が今、立ち上がる。
◆ヨーロッパで最初の職業作家にして強烈な女性擁護者(フェミニスト)クリスティーヌ・ド・ピザン
◆黒幕として、マフィアの親分の精神でフィレンツェを仕切った祖国の父(パーテル・パトリアエ)コジモ・デ・メディチ
◆古代ローマ人という案内人なしに、顕微鏡と望遠鏡の働きを兼ね備えているといわれた自身の眼を頼みとして、アルプスの南の美術家に影響を与えたヤン・ファン・アイク
◆プトレマイオスの天動説に疑義を呈し、独自の宇宙論を組み立てるのに苦闘したニコラウス・クザーヌスやティコ・ブラーエ
◆地動説に行き着いたコペルニクス
◆その都市(まち)を手に入れたとき、まずもって住民を増やすことに配慮したコンスタンティノープルの征服者メフメト2世
◆名だたる愛書家で、ロレンツォ(・イル・マニフィコ)・デ・メディチと写字職人や挿絵画家を奪い合ったハンガリー王マティアス・コルヴィヌス(マーチャーシュ1世)
◆崇高なまでに不道徳で、圧倒的に有能だったルネサンス君主チェーザレ・ボルジア
◆自己のフラストレーションから妄想を誇大化させて、魔女狩りの〈バイブル〉を著した異端審問長官ハインリヒ・クラマー
◆死後、「あらゆる者を罵倒したが、キリストだけは例外/その言い訳は、〈あいつには会ったことがない〉」との墓碑銘が流布したポルノ&ゴシップ作家ピエトロ・アレティーノ
◆ご法度の英訳新約聖書を最初に作って処刑されたが、その英語表現は今なお生き続けているウイリアム・ティンダル
◆聖地に最初のシオニストの再定住地を建設し、多くの亡命ユダヤ人に多大な恩恵をほどこしたグラシア・メンデス・ナジ
◆自分の思い通りに女王(エリザベス1世)のふさぎこみを晴らすことができた道化役者のディック・タールトン
◆40代後半の未亡人になって20歳も年下のジェノヴァ貴族の船長と恋におち、再婚した女流画家ソフォニスバ・アングイッソーラ
◆まったくの偶然から捕まり、数々の所業を白状し、四つ裂きの刑に処せられた強盗団の首領カテナ などなど……
ルネサンスをどう捉えるか
1. 古い伝統と新しい思想:1400~1450
マニュエル・クリュソロラス/クリスティーヌ・ド・ピザン/レオナルド・ブルーニ/ヤン・フス/フィリッポ・ブルネレスキ/聖ベルナルディーノ・ダ・シエナ/ドナテッロ/コジモ・デ・メディチ/ヤン・ファン・アイク/マザッチオ
2. 平和の時代のヨーロッパ人たち:1450~1475
フラヴィオ・ビオンド/ルカ・デッラ・ロッビア/ニコラウス・クザーヌス/フランチェスコ・スフォルツァ/レオン・バッティスタ・アルベルティ/教皇ピウス/ロレンツォ・ヴァッラ/アレッサンドラ・ストロッツィ/イゾッタ・ノガローラ/フェデリコ・ダ・モンテフェルトロ/ルクレツィア・トルナブオーニ/ジェンティーレ・ベッリーニ/メフメト2世
3.勃興する諸国家:1470~1495
ウィリアム・キャクストン/ハインリヒ・クラマー/フランシスコ・ヒメネス・デ・シスネロス/フェリックス・ファブリ/アントニオ・デ・ネブリ/マティアス・コルヴィヌス/ロレンツォ・デ・メディチ/ルカ・パチョーリ/サンドロ・ボッティチェッリ/ジョスカン・デ・プレ/アルドゥス・マヌティウス/レオナルド・ダ・ヴィンチ/ジョアン2世/アントニオ・リナルデスキ
4.突然の衝撃:1490~1515
クリストファー・コロンブス/ジョン・カボット/ジロラモ・サヴォナローラ/ヤコブ・フッガー/デジデリウス・エラスムス/ニコロ・マキャヴェッリ/トンマーゾ・インギラーミ/アルブレヒト・デューラー/ニコラウス・コペルニクス/イザベッラ・デステ/チェーザレ・ボルジア/ミケランジェロ・ブオナローティ/バルダッサーレ・カスティリオーネ/ラファエロ/レオ・アフリカヌス
5.旧秩序の崩壊:1510~1535
ハイレディン・バルバロッサ/ルーカス・クラナッハ(父)/トマス・モア/マルティン・ルター/バルトロメ・デ・ラス・カサス/ティツィアーノ/ニコラウス・クラッツァー/ベルナルド・ファン・オルレイ/クリストフォロ・ダ・メッシスブーゴ/ヴィットリア・コロンナ/マルグリット・ド・ナヴァル/ピエトロ・アレティーノ/ウィリアム・ティンダル/フランソワ・ラブレー/ハンス・ホルバイン(子)/ニッコロ・タルタリア
6.新しい波:1530~1550
教皇パウルス4世/皇帝カール5世/ベンヴェヌート・チェッリーニ/聖フランシスコ・ザビエル/アンドレア・パッラーディオ/ジャン・カルヴァン/グラシア・メンデス・ナジ/セファルディム/アンドレアス・ヴェサリウス/アビラの聖テレサ/カトリーヌ・ド・メディシス/ルイーズ・ラベ/エレオノーラ・ディ・トレド
7.近代の枠組み:1550~1600
ラウラ・バッティフェッラ・アンマナーティ/ピーテル・ブリューゲル(父)/ディック・タールトン/ジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ/ジュゼッペ・アルチンボルド/ソフォニスバ・アングィッソーラ/ミシェル・ド・モンテーニュ/アルカンジェロ・トゥッカーロ/エドマンド・キャンピオン/カテナ/ヴェロニカ・フランコ/ティコ・ブラーエ/ジョルダーノ・ブルーノ/イザベッラ・アンドレイーニ
【著者】
ロバート・C・デイヴィス(Robert C.Davis)
オハイオ州立大学教授(ルネサンス史)。 Christian Slaves, Muslim Masters(2003)や Shipbuilders of the Venetian Arsenal(1991)、 The War of the Fists(1995)、The Jews of Early Modern Venice(2001)、Venice, the Tourist Maze(2004)など、ヴェネツィアに関する多数の著作がある。
ベス・リンドスミス(Beth Lindsmith)
作家。オハイオ州立大学で作文法と創作の教鞭をとった。歴史、哲学、人類学に関する多くの学術書を編集、エッセイも公刊する。
【訳者】
和泉 香(いずみ・かおる)
翻訳家。本書のほかに、シーリア・フィッシャー著『ルネサンスの花園』(仮題)が近刊予定。