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ロンドン貧乏物語―ヴィクトリア時代 呼売商人の生活誌
[著]ヘンリー・メイヒュー
[訳]植松靖夫
[体裁]四六判384ページ
[定価]本体2,800円+税
[ISBN]978-4-903487-66-3
2013年6月発売
✣日本図書館協会選定図書
繁栄の底にうごめく貧しき者たちの笑いと涙、 怒りと諍い、愛と諦念を、臨場感豊かに描いた メイヒュー不朽の名作!
19世紀ヴィクトリア朝、ロンドンの下層社会を克明にレポートした古典的著作『ロンドンの労働とロンドンの貧民』から、口八丁手八丁でありとあらゆる物を売りつける商人たちの、悲喜こもごもの生きざまを紹介。
メイヒューの本に惚れ込んだ訳者が、前訳書で取り上げられなかった「おもしろい」部分を選び訳出。生き生きとした名訳で、貧しい労働者たちの生の声が臨場感豊かによみがえる。
▶▶▶▶『東京新聞』2013年8月25日付読書面に掲載されました。
イギリス帝国の最盛期、パクス・ブリタンニカを謳歌し、栄光と繁栄を内外に誇っていた時代、ロンドンの、豊饒な街角と隣り合わせに存在した貧困。清潔さとはほど遠い住環境に住み、将来への貯蓄など眼中になく、暇さえあれば博打にうつつをぬかし、それでも必死に知恵を絞って日々を生き抜いている路地裏の生活者たち。
自身はブルジョア階級の出身にもかかわらず、事務弁護士をしていた父親への反発からかジャーナリズムの世界に身を投じたメイヒューは、やがて、大都市の底にうごめく下層社会の先駆的な実地調査に着手した。カール・マルクスが大英図書館の机にかじりついて資本主義を〈理論的に〉研究しているとき、メイヒューはみずから路地裏を歩きまわり、貧しき人びとに直接インタビューし、彼らの生活ぶりを忠実に文章で再現した。
こうして書き溜められた記事は、大部な“London Labour and the London Poor”として結実し、いまやイギリス社会史研究に不可欠の文献として、ゆるぎない名声を獲得している。
本書は、“London Labour …”から、呼売商人をテーマにした項目を訳出したもので、本邦初訳である。
呼売商人と賭け事/呼売商人の政治―警官/呼売商人の結婚と内縁関係/呼売商人の宗教/女性の呼売商人/呼売商人の食事と飲み物/呼売商人の収入/金魚/猟犬/ジンジャービア、シャーベット、レモネード/ジンジャーブレッド、ナッツ/マフィンとクランペット/アイスとアイスクリーム/犬猫用の肉/文具文学美術/代書屋/爆竹とかんしゃく玉/ハエ取り紙とゴキブリクッキー/パイプとタバコ入れ/猫いらず/中古の武器/花売り娘の生活/ユダヤ人少年の街頭商人ほか
【著者】
ヘンリー・メイヒュー(Henry Mayhew)
1812年、ロンドンの事務弁護士の家に生まれ、名門パブリックスクールのウェストミンスター校に入学するも退学。数年後、弁護士の道を捨てて出版界へ。最初に手がけたのは週刊誌の『フィガロ・イン・ロンドン』の編集。次いで『パンチ』誌の創刊に深くかかわる。弟オーガスタとの共著で小説“The Greatest Plague of Life”(1847)や
“Whom to Mary and How to Get Married”(1849)なども発表。本訳書の原本である
“London Labour and the London Poor”は彼の名を不朽のものにした作品。晩年は孤独の日々をすごし、1887年7月25日に永眠。享年74歳。
【訳者】
植松靖夫(うえまつ・やすお)
上智大学大学院後期課程修了。東北学院大学教授。主要訳書にH.P.ラヴクラフト『文学と超自然的恐怖』(学習研究社)、K.チェズニー『ヴィクトリア朝の下層社会』(高科書店)、K.ヒューズ『19世紀イギリスの日常生活』(松柏社)、H.メイヒュー『ヴィクトリア時代ロンドン路地裏の生活誌』(原書房)、G.ウェイトマン『図説・テムズ河物語』、C.ヒバート『図説・イギリス物語』、U.エーコ『美の歴史』(以上、東洋書林)他多数。小社刊ではコリン・ウィルソン『人狩り』、R.ハクスリー『西洋博物学者列伝』、R.ハンベリ‐テニスン『世界探検家列伝』。